006 それから

好きな一文
「今日始めて自然の昔に帰るんだ」と胸の中でいった。こういい得た時、彼は年頃にない安慰を総身に覚えた。〜中略〜そうして凡て(すべて)が幸であった。だから凡て(すべて)が美しかった。」

理由
だれもが柵多き人生で、自然のままに在ることはとても難しいことだと思いますが、このときの代助のように悶々とした心によぎる、一つの真理のような悟りのような感覚は、とても共感出来ると思いました。
目に見えない、言葉で言い表せない大切なこと、それが感覚的に入ってくる名場面でした。
(ウラタダシ/アーティスト 男 東京都)

005 坊ちゃん

好きな一文
「それ以来蒼くふくれた人を見れば必ずうらなりの唐茄子を食った報いだと思う。この英語の教師もうらなりばかり食ってるに違いない。尤もうらなりとは何のことか今もって知らない。」

理由
ぼけつっこみの原型が1906年の小説で描かれていたとは・・・。漱石恐るべし。
日本近代化を担おうとして消耗しきった漱石は、近代のその先にある閉塞感を見据えていたのかもしれない。
勧善懲悪を描いた作品として捉えるにはあまりにも自虐的すぎる。そのくせ根底を貫いているのは無償の愛への希求である。
漱石が現代のお笑い系放送作家だったらかなりの売れっ子だったろうな〜。
(福浦恵美子/会社員 女 東京都)

004 こころ

好きな一文
「自由と孤立と巳れとに充ちた現代に生まれた我々は、其犠牲としてみんな此淋しみを味はわなくてはならないでせう」

理由
若い頃は先生への憧憬があったように思いますが、歳を重ねてふたたび読み返してみると、先生に対しての感情に変化がありました。あらためて今読み返しみて、人間の悩みや感情は世紀がかわって環境がかわっても、かわらぬものであることを痛感しました。

(ひわだようこ/会社員 女 東京都)

003 趣味の遺伝

好きな一文
「どう間違ったって浩さんが碌々として頭角をあらわさないなどと云う不見識な事は予期出来んのである。——それだからあの旗持は浩さんだ。」
理由
話の中で「余」が亡友の浩さんの事をどれだけ尊敬し、信頼していたかがよくわかります。情景描写が印象的な漱石の話は、鮮明なビジュアルとして頭の中に浮かんできます。
(莇 貴彦/自営業 男 神奈川県)

002 坊っちゃん

好きな一文
「死ぬ前日おれを呼んで坊っちゃん後生だから清が死んだら、坊っちゃんのお寺へ埋めて下さい。お墓のなかで坊っちゃんの来るのを楽しみに待っておりますと云った。だから清の墓は小日向の養源寺にある。」
理由
全体のテンポの良さと話の痛快さの中に、淡々とした孤独や悲しさを感じました。特に最後の文章は悲しいけど美しくて、何故か私は同じ日本人である事を嬉しく思いました。
(maxico/主婦 女 東京都)